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Vol 1. 2023年7月 時事レポート「初回特別版」

更新日:2023年9月4日

目次




 


1 国内


○ 日本の政治状況

写真:shutterstock.com/TAKASHI SUZUKI

解散総選挙に見る岸田政権の行方


岸田内閣はG7広島サミットが好感され、直後のメディア各社世論調査では10ポイント近く上昇し、支持するが支持しないを上回った。この結果を受け、岸田首相が近く衆議院を解散するだろうという憶測が広がり、野党との神経戦に突入した。


支持率が上昇しているタイミングでの衆議院解散は、与党にとって有利に働くことは言うまでもない。しかし、この時は国民が納得できる解散の大義が見つからなかった。


そこで、野党(立憲民主党・共産党)が国会会期末に恒例のように出している「内閣不信任決議案の提出は、解散の大義になり得る」との発言が自民党幹部を中心に出され始める。この発言の真意は、野党に対する牽制と同時に、解散のアドバルーンを上げて国民の反応を見るところにある。


ここまでは、自民党は上昇基調の支持率を背景に「勝算あり」と見ていた。ところが、その空気が一転する以下の事態が起こったのである。

  • 岸田首相の長男の公邸での問題行動などで噴出した世襲批判。

  • マイナカードトラブルの表面化

  • 異次元の少子化対策への疑問(実現が疑わしい)

以上の3点が引き金となり、岸田政権の信頼が低下、直近(6月上旬)の世論調査では支持率が概ね5ポイント程度下落した。


さらに決定的だったのが、6月10日頃、来るべき総選挙に備えて全国的に実施した情勢調査の結果が自民党大敗という結果だったことである。なお、この自民党による情勢調査はメディアの中でも精度が高いと評価されているNHKの選挙情勢調査より確度が高いとされている。(これらの予測は特殊な計算式で行われる) 詳細な数字は以下の<参考1>を参照。



<参考1:解散総選挙を行った場合の最終議席予測>

解散総選挙を行った場合の最終議席予測は、以下のとおりだった(カッコ内が現有議席からの増減)。

自民党 220議席(42減)
公明党 23議席(9減)
立憲民主党 114議席(17増)
日本維新の会 75議席(34増)
日本共産党 13議席(3増)
国民民主党 9議席(1減)
れいわ新選組 6議席(3増)
参政党 1議席
その他 9議席

自民党が42議席を減らし、単独過半数を割り込む結果となっており、公明党との連立を維持しなければ政権を維持できない。そして、低迷している立憲民主党が議席を伸ばし、躍進の維新は34議席と大幅に議席を伸ばす予測となっている。この情報が野党側に漏れた。立憲民主党の内閣不信任案提出の強気は、この情報が根拠となっている。


岸田首相が今国会で衆議院は解散しない考えを明らかにしたのは、この時点で衆院解散を打てば岸田政権が終わる可能性が高いと判断したためである。


ちなみに、主義主張が異なる公明党との連立解消が取り沙汰されているが、全国の小選挙区に創価学会員票が平均約2万票あるため、その票をあてにする自民党議員が多数いることから、解消することはない。


今後は、マイナンバーカードで新たな問題が露呈しないこと、長男を広島に帰してほとぼりを冷まし、少子化対策の中で可能なものについては本年度中に実施(ある種のばら撒き)して、批判を和らげながら支持率の回復を待つだろう。


なお、6月2日、24年秋に従来の保険証を廃止するなどとした、改正マイナンバー法を成立させ、マイナンバーカードに保険証機能を紐づけたマイナ保険証に一本化することを急ピッチで進めている件につき、一旦立ち止まるべきという多くの声を総理が無視しているのは、一度決定したことを覆すことは政策の失敗を意味し、求心力を失うきっかけになることを警戒しているためである。


政府がこのマイナンバーカード問題に神経を尖らせるのは、この問題の扱いを誤ると、岸田政権が追い詰められるためであり、野党が求める同問題の集中審議(閉会中審査)に応じたのも、国民生活に直結する問題として解散総選挙への影響を考慮したものである。


そして岸田総理は、通常国会が閉会した6月21日の記者会見で「国民や事業者から見て、便利で使いやすい効率的な行政に組み直すための改革が不可欠となっている。令和版デジタル行政改革に挑戦する。この取り組みを進めるうえで、大きな役割を担うのはデジタル社会のパスポートである、マイナンバーカードだ」として、最優先で取り組む方針を明らかにした一方、相次ぐ問題については「事態を重く受け止め、マイナンバー情報総点検本部を設置し、政府全体で総点検と再発防止を強力に推進することとした。デジタル社会への移行のためには国民の信頼確保が不可欠であり、1日も早く国民の信頼を取り戻せるよう、政府をあげて取り組んでいく」と表明し、同問題解決への本気度をアピールした。


保険証廃止については、「来年秋の保険証廃止に対する国民の不安を重く受け止めており、全面的な廃止は不安を払拭するための措置が完了することを大前提として取り組む」と述べ、方針転換の余地を残した。


この発言で、来年秋の保険証廃止を先送りすることもあり得るとの含みを持たせた格好となり、廃止の決定は覆さないものの、廃止時期については柔軟に対応するという印象操作を行なった。


ここで重要なのは、総理発言にある「デジタル社会のパスポート」としてマイナンバーカードを位置付けていることである。つまり、マイナンバーカードにあらゆる情報が紐づく社会を想定しているのである



○ 日本は近い将来、政府に国民情報が集約される


画像: shutterstock.com/Pixels Hunter

マイナンバーカードを全国民に普及させたい政府


コロナ禍において、全国民に対するアナログによる給付金の支給で混乱が生じたことから、政府は確実で円滑な支給を名目にマイナンバーカード普及に力を入れ始めた。マイナポイントや普及のための広報などにおよそ2兆円を投じている。マイナンバーカードには、保険証機能と運転免許証、個人口座が紐付けられる予定となっているため、これまで保険証(健康保険組合等)、運転免許証(警察庁)、口座(各銀行等)がそれぞれ管理していた情報を一元管理することが可能となった。


IOTよるデジタル社会


インターネットとモノがつながり、キャシュレス決済が拡大していく中、その膨大な情報を活用するビジネスが展開されていく。この流れは、人はより便利なものを求める傾向にあるため、もはや止めることはできない。なお、現在のところ、これらの情報に行政側がアクセスすることはできない。


増加する監視カメラ設置


さらに、昨年の安倍首相に対するテロ、本年の岸田首相襲撃、そして昨今の闇バイトに起因する強盗事件の頻発、各種詐欺事件の横行は日本の安全神話を脅かしている。これら事件を解決するために、不可欠なものが監視カメラである。警察の捜査で監視カメラ映像を活用しないものはないと言っても過言ではない。


日本国内の監視カメラは、店舗や家庭用も含め10億個以上(インターネット接続されていないものも含む)あるとされ、さらにドライブレコーダー、個人のスマホ(動画をネットに掲載等)を含めると膨大な数となる。これらは現在、一元的に見ることはできないため、警察の捜査では専門チームを編成して根気良く監視カメラ等の画像をチェックして犯人の特定に活用している。


例えば、中国は防犯カメラ大手であるハイクビジョン社製のカメラが中国全土の至る所に設置され、治安当局によって管理・運営されており、交通違反などは顔認識等により即座に個人が特定される。また、その他の交通機関を利用した場合なども、すべて把握できるシステムが導入されていることから、国民の行動を把握できる社会が形成されている。いわゆる監視社会である。


なお、米国はハイクビジョン社製のカメラを安全保障上の脅威となり得る通信機器に指定し、米国内への輸入や販売に関する認証を禁止する行政命令を出している。


日本でも近い将来、多発する犯罪を抑止し、犯人を特定する手段として監視カメラを一元的に管理・運用できる法改正と仕組みが出来上がるだろう。


現在のところ政府は、監視社会を作り上げようという意図はないが、デジタルやAIを活用して安全で便利な社会を実現しようとすればするほど、監視社会に近づく体制が出来上がる。

特に日本は、デジタル分野での遅れを取り戻すため、生成AIを積極的に活用する方針


OpenAIのサム・アルトマンCEOが4月10日に来日した際、岸田総理と面会したほか、再び6月12日に再来日し、ソフトバンクグループの孫社長と面会、共同で事業を模索していることを明らかにしている。また、4月にはマイクロソフト社の副会長やGoogle社の副社長も来日し、自民党のデジタル社会推進本部の幹部と会談している。


これらの動きは、ヨーロッパやアメリカが生成AIに規制をかける方向であるに対し、日本は積極的に活用しようという動きを見せていることに起因する。よって日本は、生成AIに対する危機意識が低いため、ある意味で生成AIの実験場になる可能性がある。



<参考2:ヨーロッパのAIに対する規制の動きについて>

ヨーロッパ委員会は一昨年、世界に先駆けリスクに応じてAIに規制を設ける法案を提出しているが、この法案について同委員会は14日、生成AIに対する規制も盛り込むべきとして、議会としての修正案を賛成多数で採択した。議長は「テクノロジーは我々の基本的権利や民主主義の価値観に沿って発展すべきだ」とのコメントを出している。

規制の具体的内容は、
プライバシー保護=警察などが公共の場で顔認証システムをリアルタイムで監視する。顔認識のデータベース作成のため、ネットや監視カメラの映像を使い、無差別な顔画像の収集などを禁止。この規制に違反した場合、日本円で最大60億円余りか、法人の場合は年間売り上げの7%か、いずれか高い方で罰金が課される。

著作権保護=AIに学習させるため、著作権保護のデータを利用した場合は、公表することを義務付ける。

偽物対策=AIを使って作成された文章、画像・音声などは「AIで作成」したことを明示することを義務付ける。

となっており、規制強化の流れである。それに対し、日本は急ぎすぎている感が否めず、慎重な対応が求められる。

なぜなら、AIの権威ら350人以上が、AIのリスク軽減は核戦争などと同じく世界的優先課題とする声明を出し、人類に存亡の危機をもたらす可能性があると警鐘を鳴らしたからである。その中には、ChatGPTを開発したオープンAIのサム・アルトマンCEOや、AIの危険性についてよりオープンに警告するためグーグルを退社したジェフリー・ヒントン博士も含まれている。

生成AIがもたらす未来と人間の関係については、大きなテーマであるため、別の機会に論じたい。


○ 人口減少による労働力不足は、政府の少子化対策等で克服できるか


少子化対策


縮小する経済に歯止めをかけるため(経済規模を維持するため)の対策を打ち出した。

国立社会保障・人口問題研究所が発表した将来推計によれば、現在1億2450万人の人口は、2070年には8700万人に減り、日本に定住する外国人の割合は全人口の10%に達すると見込んだ。

そして、65歳以上の高齢者は3400万人に増えて38.7%を占める一方、生産年齢人口は現在の7500万人から4500万人にまで減ると試算した。


そのため、政府は少子化対策の拡充に向けた「こども未来戦略方針」の素案を示し、2024年度中の実施をめざして毎月支給する児童手当の所得制限を撤廃するとともに支給の期間を拡充すると明記した。必要な予算は24年度からの3年間に年3兆円台半ばとした。毎年1兆円超を投入する計算である。


現在の経済規模を維持しようとすれば、少子化対策は喫緊の課題であることは間違いない。子供を産んで育てるには資金的な支援がなければ困難であるとされる日本の現状を鑑みれば、税金の大量投入も一つの方法であろう。なお、この財源については国債の一種である「こども特例公債」(仮称)を2年程度にわたって発行する方針である。つまり、新たな借金等で賄う。


しかし、本当に児童手当の拡充等で少子化に歯止めがかけられるだろうか。お金の問題以外の視点で見る必要があるのではないか。なぜなら、特に先進国で見られる価値観の多様化が定着しつつある現状を直視しなければ事の本質を見誤る可能性がある。


結婚や子供に対するアンケート結果は様々であり、非常に流動的であるが、年収(概ね300万円が境界)が高いほど結婚や子育てに前向きの傾向にある。しかし、年収にかかわらず結婚を希望している男女が年々減少し、同時に子供が欲しいと考える男女も減少している。


このことは、生き方の価値観が変化していることを物語る。例えば、男女ともに「一人が楽」「自由な時間がなくなる」「人と生活するのは煩わしい」「結婚や子供を持つことが幸せだとは考えない」という価値観が広がっており、金銭的な問題だけではない価値観の変化が伺える。


その一方で、発展途上国では人口が増加しているが、その理由の一つとして、人間は生存が脅かされる環境の下では種を絶やさないために子孫を残そうとする本能が働くと考えられる。


日本のような先進国においては、今後も価値観の変化による人口減少が進むと予測されることから、政府の少子化対策の効果は限定的となるだろう。


外国人労働者に頼らざるを得ない現状

 

政府は労働者不足の対応策として、外国人労働者の受け入れを推進し始めた。単純労働を含む外国人労働者の受け入れを拡大している。


また、人手不足を解消するため、人の代わりにロボットを導入する企業も増えてきているものの、コストの面で外国人労働者に頼らざるを得ない現状にある。


政府はこれまで、外国人労働者の受け入れに対して消極的な姿勢を見せていたが、2018年に6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2018」において大きく方針転換した。


今後、外国人労働者を雇う企業がますます増える可能性が高いが、外国人労働者を雇う場合、コミュニケーションや労働条件等の課題を克服する必要があり、時間と労力を要する。

 

では、現在から将来にわたる恒常的な人手不足をどのように捉えるか。例えば、韓国では、合計特殊出生率が1を大きく下回り、日本よりも少子化問題は深刻とされている。同国の生産年齢人口がピークに達したのは2019年である。日本で生産年齢人口がピークに達したのは1995年だったが、それ以降日本ではデフレと経済不況が起きて「失われた20年」が始まった。


実は韓国では、生産年齢人口がピークに達して数年が経過して働き手の減少が続くという見通しは強まっているが、経済停滞が始まる兆しは見られない。


日本では生産年齢人口がピークに達して以降、長年のデフレと低成長に直面した。そのため、「労働力減少や少子高齢化がデフレや経済停滞の主たる要因」との見方が支配的であるが、人口動態が経済成長率やインフレに及ぼす影響は決定的に大きくはなく、「人口減でデフレになる」「働き手が増えなければ経済成長は難しい」というのは妥当ではない。


そもそも人口が減っても、1人当たりのGDPを増やすことで経済的な豊かさを高めることができる。このため人口や働き手が減少してもデフレになるとは限らない。


そうであれば、長期にわたりデフレに陥り、名目経済成長がほとんど増えなかった日本経済の停滞は、人口動態が引き起こしたものではなく、当時の不十分な金融財政政策の失敗(このメカニズムについては今後別途解説予定)ということになるのだろう。だからこそ、安倍政権下での2013年の金融緩和転換で、デフレではない状況が到来したということになる。


従って、今後はもっとコンパクトにした規模で高付加価値の「ジャパンブランド」で勝負すべきではないか。


新たな日本の価値づくりに関しては、今後の日本の進むべき道として重要なテーマであるため、別の機会に詳述したい。


○ 経済安全保障で企業に求められる課題

画像:shutterstock.com/sdecoret

先端技術情報の中国流出事件


警視庁公安部は6月15日、国立研究開発法人 産業技術総合研究所の上級主任研究員で、中国籍の権恒道容疑者(59)を、自身が研究するフッ素化合物に関する先端技術の情報を中国の企業にメールで送って漏えいしたとして、不正競争防止法違反の疑いで逮捕した。


問題は、権容疑者は、現在も中国「北京理工大学」の教授を兼任しているにもかかわらず公的機関でそれが見逃されていた点にある。なぜなら、同大学は中国人民解放軍と関わりが深いとされる「国防7校」の1つであり、さらに、容疑者の出身校である「南京理工大学」も「国防7校」に含まれているからである。


つまり、日本の国家予算で研究した成果が中国に流出するという失態を演じたということになる。


今後この事件を契機に、政府は先端技術情報の流出を防ぐため、安全保障などに関連する重要情報にアクセスできる人の信頼性を事前に確認する「セキュリティ・クリアランス」制度の創設に向けた動きに拍車をかけるだろう。


日本企業が取り組むべき課題


今後、日本企業(特に先端技術、インフラ関連)は、サイバーセキュリティに加えてヒューマンインテリジェンス(人による情報流出)についての意識を高めなければならない。


例えば、雇用した外国人が重要情報にアクセス可能であった場合、その情報が海外に流出する可能性、あるいは、外国の情報機関に所属する者が巧みに企業秘密を知り得る立場の日本人に接近し、情報を持ち出させる危険性を排除しなければならない。


前述のセキュリティ・クリアランス制度は、来年にも決定される可能性が高いため、社内教育をはじめとした情報セキュリティー意識の向上対策に加え、自社の何が経済安全保障上のリスクになり得るかなど、総点検しなければならないだろう。


経済安全保障については、今後政省令が制定される予定であることから、定期的に記述したい。また、踏み込んだ内容については対面あるいはクローズな状況で詳述することを検討している。



 

2 国際


○ 価値観の違う中国に日本はどう向き合えばいいのか


米国に歩調を合わせないヨーロッパ

画像:shutterstock.com/helloRuby

本年4月、フランスのマクロン大統領が中国を訪問し、習近平国家主席と会談した。その際、フランスを代表する企業(鉄道技術大手アルストム、フランスが出資しているヨーロッパの航空宇宙企業エアバス等)のトップら60人が同行し、中国とフランスの36社が18件の協力協定を締結した。


この動きは、米中が対立する中であってもフランスは中国と経済的な関係を維持・拡大する方針であることを示している。


これに対して日本は、覇権を強める中国(台湾有事等)を警戒し、NATOとの連携を図る戦略を描いており、ドイツにおいて行われたNATOによる大規模な空軍演習にアジアから唯一オブザーバー参加した。この演習は、70年あまり前にNATOが設立されて以来、最大規模のものである。


これについて、演習を立案したドイツ空軍総監は、「ヨーロッパとインド太平洋の安全保障は切り離せない。NATOは日本と緊密な関係を維持するため、オブザーバーとして招待した」とコメントし、インド太平洋の安全保障に関与する意向を示した。


ロシアによるウクライナ侵攻で国際秩序が揺らぐ中、日本政府は中国を念頭に東アジアでも同じことが起こるかもしれないと繰り返し指摘してきた。演習に日本を招いたことは、ドイツをはじめとする西側諸国がヨーロッパとアジア太平洋地域の安全保障を一体だとみなしはじめていることの表れであろう。


しかし、事はそう単純ではない。前述のマクロン大統領の中国訪問に加え、同大統領は「NATOは活動範囲を北大西洋の外に広げるべきではない。活動範囲を拡大すれば我々は大きな過ちを犯すことになる」と発言し、NATOの東京連絡事務所開設に反対した。


日本は、NATOの東京連絡事務所開設を実現したいが、NATOは全加盟国が一致しなければ決定できない。そのため、フランスが反対している以上、実現できないことになる。


先般、広島で行われたG7サミットでも、米国が中国に対してデカップリング(経済関係を断ち切る動き)を提唱したが、フランスをはじめとしたEUは、それは困難であり現実的ではないと反対、デリスキリング(経済のリスクを減らす動き)という表現にとどまった。



<参考3:フランスが米国と距離を置く理由>

なぜ、フランスは米国と距離を置く姿勢なのか。それは、フランスの3大英雄の一人であるシャルル・ド・ゴール元大統領の影響があるとされる。同大統領は、西側の一員でありながら米国に歩調を合わせず、独自路線で国際社会における地位確立を目指した。その独自路線とは、

①「米国の核の傘に頼らず自国で核武装」
1961年、米国はフランスに対し、核の傘で守るという条件で核兵器を所有しないように働きかけた際、ドゴール大統領が当時のケネディー大統領に「パリを守るためにニューヨークを犠牲にする覚悟はあるのか」と詰め寄った。つまり、ソ連からパリに核ミサイルが発射された場合、米国は報復としてモスクワに核ミサイルを打ち込むかということ。そうした場合、ソ連はその報復としてニューヨークに核ミサイルを打ち込むことになる。
これに対し、ケネディー大統領は何も答えなかったため、フランスは核武装することとなった経緯がある。

②「中華人民共和国と国交樹立」
1964年、当時の米国や他の西側国家は、中国共産党政権の中国と国交を結ぶべきではない。つまり、中華人民共和国を認めるべきではないとしていたにもかかわらず、ドゴール大統領は中華人民共和国を国家として認めて、国交を樹立した。

このように、フランスでは独自路線が高く評価される。マクロン大統領は、ドゴールを目指しているのである。

最新の世論調査の結果は、ヨーロッパ市民はEU委員長よりもマクロン大統領に賛成していることを示している。彼らは、中国をヨーロッパに挑戦し、弱体化させる大国とはみなさず、バイデン政権が推進する「民主主義対先制主義」の枠組みに賛成していないという結果が出ている。


そのマクロン大統領は、「アメリカの同盟国であることは、下僕になることではない」とも発言している。フランスは、経済面で輸出先として市場が大きい中国を必要としており、中国と一定の関係を維持したいとの考えである。


日本もフランスと同様、米国に追随するのみの姿勢は好ましくなく、独自の関係を模索し続けなければならない。そのため、米中の緊張状態を緩和するための役割として、日本が得意とする文化交流などを含む、ソフトパワーを活用した外交を中心に相互理解を深める仕組みの構築が必要である。


このソフトパワーを中心とした交流については、別の機会に詳述したい。


日本企業は、対立する米中の狭間で難しい対応を迫られると考えがちであるが、実はそうではなく、巨大な中国市場を念頭にもっと積極的にビジネス展開する姿勢で臨むことが求められる。そのため、中国とのビジネスで何がリスクになるかを整理し、把握する必要がある。

アステラス製薬の社員が中国で逮捕された事件は、中国本土でビジネスを展開する日本企業にとって大きな衝撃となったが、なぜ同社員が逮捕されたのかが判明しないかぎり不安は拭えず、中国国内で積極的に動けない。まず、日本政府が中国政府に対して、逮捕の事由と同社員の早期釈放を求め、それを実現しなければならない。


なお、同事件については、機微な情報を含むため、クローズな場で解説したい。


中国が台湾に侵攻した場合、米軍は派兵するか


6月2日からシンガポールにおいて開催された、アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアログ)で米国のオースティン国防長官は、台湾有事について「衝突は切迫しておらず、不可避でもない」と語る一方、「間違いなく、台湾海峡での衝突は破滅的なものになる」と警告した。


これに対し、中国の李尚福国務委員兼国防相は「中国は必ず統一されなければならず、必ず統一される」と述べ、名指しは避けたものの「覇権主義の先にあるのは戦争と混乱だ」と米国を強く牽制した。


では、バイデン米政権は台湾有事で本当に米軍を直接投入し、中国と戦火を交える覚悟はあるのか。中国との直接的な戦争は、核戦争に発展する可能性も排除できず、先述のドゴール大統領とケネディー大統領のやりとりや、ウクライナ戦争ではロシアと直接的な戦争を避けている状況を見ても極めて懐疑的である。


従って、現在米国が目指しているのは、台湾海峡においてプレゼンスが低下している米軍に同盟国を加えて抑止力を高めようという戦略である。その米軍が、共に活動する主力として期待しているのがオーストラリア軍と自衛隊である。


オーストラリア軍は第2次大戦後、米国の戦争には欠かさず参加してきた。台湾有事に米軍が介入すれば、オーストラリア軍も何らかの形で必ず参加するとみられ、自衛隊は平和安全法制によって共に活動する米軍が攻撃を受けた場合の集団的自衛権の行使を想定している。

また、6月3日には日米豪比防衛相会談も行われた。フィリピンは4月、米軍が使用できる新たな国内基地4カ所を公表した。これで、米軍が使えるフィリピンの基地は計9カ所に増えた形である。


さらに、6月3日に行われた日米韓防衛相会談では、3カ国が北朝鮮ミサイルの警戒データをリアルタイムで共有するメカニズムを年末までに始動するとした一方、日米豪比の会談に韓国が加わらなかったことから、米軍は台湾有事に韓国軍が直接関与することを想定していない。あくまで米国は、台湾有事の際には、北朝鮮やロシアが軍事行動を起こす「複合事態」を警戒して韓国軍に北朝鮮を抑止する役割を期待しているとみられる。


以上のことから、まず中国が台湾への軍事侵攻を断念させるための抑止力を同盟国やNATOを巻き込む形で高めることに重点を置く戦略であることは間違いないであろう。しかし、それにもかかわらず不測の事態が発生した場合は、米軍が直接中国と戦火を交えることはなく、ウクライナ戦争と同じく台湾軍に対する武器提供等にとどまる可能性が高い。この場合、日本は米軍への武器供与を求められ、その結果、中国とは長期にわたって深刻な対立状態となる。


なお、中国が本当に台湾に軍事侵攻するかについては、ウクライナ戦争でロシアがどのような結果になるかを注視しており、ロシアが国際社会から孤立してプーチン政権が終わる結果となった場合は、台湾侵攻のリスクが大きく低減するだろう


○ 北朝鮮がミサイル発射を繰り返す目的とは

画像:shutterstock.com/hyotographics

北朝鮮によるミサイル発射の傾向


北朝鮮は、金正恩体制となって以来、弾道ミサイル等の発射実験を加速させている。金正日(金正恩の父)体制では、米韓軍事演習や北朝鮮の記念日に合わせてミサイルを発射する傾向にあったため、ある程度の予測が可能であったが、もはや金正恩体制では予測不能な状態となっている。


米韓軍事演習時には、北朝鮮として何も対応しなければ国民に示しがつかないため、ミサイル発射が行われるという傾向は、金正日体制時とほぼ変わらないものの、その他の発射時期に一貫性は見られない。


このことは、北朝鮮が国際社会(特に米韓)を牽制する狙いでのミサイル発射から、本気で弾道ミサイル完成に向けた発射実験へと移行したことを意味する。つまり、北朝鮮は単に核兵器搭載可能なミサイル開発を急いでいるのであり、その傾向はロシアによるウクライナ侵攻が大きく影響しているものと思われる。


北朝鮮は、米国を中心とするNATOがロシアを攻撃することができないのは、ロシアが大量の核兵器を保有し、その使用をほのめかしていることが最大の理由であるとし、米国まで届く核兵器保有が自国を守る唯一の手段だと考えているからである。


そして北朝鮮は、6月18日までの3日間にわたって開かれた朝鮮労働党中央委員会総会で、「強力な核兵器の増産方針を確認した」としたほか、敵への対抗として「圧倒的な措置も承認した」として、米韓への対抗姿勢を強調した。重要政策を決定する朝鮮労働党中央委員会総会は、今年2回目の開催で、上半期に2回開かれるのは異例。


朝鮮中央通信は、「核兵器を発展させる方向と核能力を増強する路線を一貫し、威力ある核兵器を増産して防衛することについて強調した」と報じた。さらに、軍事演習を行う米韓を非難し、「圧倒的かつ攻勢的な措置を実行するため、具体策を承認した」とした。


その具体策の内容は明らかにしていないが、今後、アメリカに勝利したとしている朝鮮戦争休戦協定70年が今月に、建国75周年が9月に控えていることから、国威発揚(北朝鮮国内向け)のため更なる弾道ミサイル発射や核実験などを強行するだろう。


北朝鮮は、日本を攻撃する目的でミサイルを発射する可能性はあるか


全国瞬時警報システム(Jアラート)は、北朝鮮が発射した弾道ミサイルが日本の領土・領海に落下する可能性又は領土・領海の上空を通過する可能性がある場合に使用することとなっているが、実効性に疑問があると言わざるを得ない。


そもそも、北朝鮮が本当に日本の領土に着弾させる目的でミサイルを発射する可能性はあるのか。結論から言えば、その可能性は限りなくゼロに近い。北朝鮮がミサイル攻撃を想定しているのは、あくまで韓国のみである。なぜなら、現在、朝鮮半島は南北に分断された状態であるが、もともと同じ国であったことと、同じ民族であることから、他国を侵略するのではなく、統一のためという大義名分が立つからである。


その一方で、日本に対する攻撃は他国への侵略行為にしかならない。戦争には大義が必要で、日本を攻撃するための大義がなければミサイルを日本に打ち込むことはできない。北朝鮮は、大義を重んじることから、日本が攻撃しない限り、北朝鮮から攻撃することはないだろう。


日本のメディアは、北朝鮮がミサイルを発射する度に日本に危険が迫っているかのような印象を与える報道を展開しているが、北朝鮮のミサイル発射実験が失敗して誤って日本の領海に着弾することを除いて危険はないと言える。なお、北朝鮮のミサイル発射技術は以前より格段に向上しているため、その可能性も極めて低い。


なぜ、日本のメディアが北朝鮮によるミサイル発射の危険性を煽るかのような報道に終始するのか。それは、人は刺激的な内容の報道に惹きつけられる傾向が強いため、危険はないとする報道では視聴者数が減少するという結果が明確に現れるからである。


要するに、同じミサイル発射を報じる場合であっても、危険性(事実ではなく予測)を強調した方が単純に視聴率を稼ぐことができるという理由に他ならない。


それによって形成された世論は、防衛予算増額の根拠となり、米国製のミサイル防衛システム購入につながるという構図になっている。なお、このような構図は誰かが意図的に描いたものではなく、自然のうちに出来上がってしまったというのが正確だろう。


いずれにせよ、日本は中国と北朝鮮という全く価値観の異なる国家体制の国と接し、かつ戦争により多くの問題を抱えている。とはいえ、両国ともに深い関係があるのも歴史的事実であり、それらを克服して良好な関係を築くことが日本の安全確保に繋がるのであるが、これは容易ではない。しかし、この容易ではないことにチャレンジしなければ、真の平和は訪れない。


この具体的解決策については、順次述べていきたいと考えている。


○ ロシア国内混乱の行方


国防省幹部との対立で、武器弾薬を供給されないロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジンは5月20日、ドネツク州バフムトの「完全制圧宣言」をし、5月25日から撤退を開始、6月1日にはワグネルはバフムトをロシア軍に引き渡した。


この動きは、武器弾薬不足等でウクライナ軍に勝てる見込みなしと判断したプリゴジンが早々に勝利宣言し、生き残るために前線を離れる決断をしたことを意味する。


しかし、前線で戦って戦果を上げていたワグネルが前線を離れたことにより、プリゴジンの影響力は弱まり、ロシアにとって無益な存在となった。そのため、この機に乗じてロシア国防省が攻勢をかけたのである。


ロシア国防省は6月13日、直接の管轄下にない民間軍事会社(志願兵部隊)などと7月1日までに契約を交わし、ロシア正規軍の傘下に入れる方針を明らかにした。つまり、ワグネルをロシア軍の指揮下に入れることで、プリゴジンを政治的に葬ろうとしたのである。


ショイグ国防相およびゲラシモフ参謀総長と対立していたプリゴジンは、これに猛烈に反発、契約を拒否する姿勢を示した。さらにこの対立にプーチンが参戦、(ロシア軍に民間軍事会社を組み込む)命令への支持を表明した。追い詰められたプリゴジンは6月23日、ロシア軍がワグネルの陣地をミサイル攻撃し、大量の兵士が犠牲になったとする声明を出した。(実際に攻撃があっかどうかは定かではない)


そして、プリゴジンは同日(6月23日)にSNSを更新し、「国防省は今、国民をだまし、大統領をだましている。(昨年)2月24日のいわゆる特別軍事作戦は全く異なる理由で開始された」「ウクライナはこれまでもドンバス地域を爆撃しておらず、また、ロシアを攻撃するつもりもなかった」「ショイグ国防相や大富豪が自身の利益のために戦争を始めた」と投稿し、ロシアによる軍事侵攻を正当化するプーチン政権の主張までも否定した。(これまではロシア軍に対する批判のみだった)この投稿によって事態は大きく動き出す。


その後、プリゴジンは「正義の行進」を行うと宣言、ワグネル兵25,000人を率い、6月24日にはロシア南部ロストフ州に入り、州都ロストフナドヌーのロシア軍管区司令部を無抵抗のまま制圧した。


これに対して、これまでプリゴジンを擁護してきたプーチン大統領は6月24日、緊急テレビ演説を行い「われわれが直面しているのは裏切りだ」と述べ、ロシア軍に断固たる措置をとるよう指示したことを明らかにした。そして、ロシアの国家テロ対策委員会はプリゴジンが「武装反乱」を呼びかけたとして、連邦保安局(FSB)が捜査に着手したと発表した。


プーチン大統領のテレビ演説にプリゴジンは、「大統領はひどく誤解している。われわれは愛国者だ。大統領などの要求で、非を認めるつもりはない。われわれは戦い続ける。なぜなら、この国の腐敗や欺まん、官僚主義が続いてほしくないからだ」と述べ、投降しない考えを示した。


その後、ワグネルはヴォロネジのロシア軍施設を制圧、さらに北上して6月24日の午後8時には、ロシア軍、国境警備局、治安機関の抵抗を受けることなくモスクワから200kmの地点まで迫った。


なお、ロシア軍の抵抗を受けることなく進軍できたのは、ロシア軍の副司令官を務めるスロビキン氏をはじめとする軍の幹部が反乱の計画を事前に知っており、プリゴジンに協力したとの情報がある。


プリゴジンは、本当にロシア軍との衝突も辞さない覚悟だったのか。破竹の勢いで首都モスクワに迫っていたプリゴジンは、なぜ進軍を止めたのか。ベラルーシのルカシェンコ大統領が、プリゴジンと電話交渉を行い、彼が納得したからだといわれている。そこでクレムリンとなんらかの合意がなされたことは間違いないだろう。では、クレムリンとプリゴジンは、どのような内容で合意したのか?


ロシア大統領府のペスコフ報道官は、武装蜂起を呼びかけたプリゴジンに対する犯罪容疑を取り下げると明らかにした。プリゴジンとワグネル戦闘員の安全を保証する以外に何らかの譲歩をしたかについては言及を避けた。


果たして、「プリゴジンに対する犯罪容疑を取り下げること」「プリゴジンとワグネル戦闘員の安全を保証すること」という条件により、モスクワへの進軍を停止したのか。


プリゴジンが撤退した理由は、軍事クーデターが失敗に終わったからではないか。正確にはショイグ国防相およびゲラシモフ参謀総長を排除し、ロシア軍を完全掌握することができなかったと見る。


つまり、プリゴジンは進軍を開始する前、ロシア軍兵士にワグネルへの合流を呼びかけていた。25,000人の兵力では、全ロシア軍に勝利することはできない。したがって、ロシア軍から多くの将校や兵士が呼応し、ワグネルに加わることを想定していたのである。ところが、期待したロシア軍内部での蜂起は起こらなかった。こうした理由で、プリゴジンは撤退を余儀なくされたのだろう。


プリゴジンの反乱は、わずか一日で終わったが、プーチン政権への打撃は甚大である。プーチンは絶対的なリーダーであり、ロシアのすべてを掌握していると思われていたが、実際はそうではなかったことが明らかになった。


ワグネルは、一日でロストフナドヌーとヴォロネジを支配下に置いた。この二つは、人口100万人を超える大都市である。さらに、ワグネルはわずか1日でモスクワから200kmの地点まで迫り、ロシア国内の防衛体制の脆弱さが世界に知れ渡った


プーチンは6月24日朝、「裏切り者を罰する」と宣言したが、同日夕方には、「犯罪容疑を取り下げ、安全を保証する」と一転させた。このことは、国民の目には「強いワグネルにプーチンが譲歩した」と映るだろう。


2000年に大統領になってから23年間、プーチンはずっと最強の絶対権力者だった。しかし、前言を撤回し、プリゴジンに譲歩したプーチンを見た国民の意識は変わる。そういう意味で、プリゴジンは「プーチンの絶対神話」を破壊することに成功したと言える


以上のように、プーチンの影響力は確実に低下しており、ロシアは統制が取れていない。また、一連のプリゴジンの動きの背後には、米情報機関(CIA)による分断工作があることは間違いないであろうことから、ロシア国内は揺さぶられ、混乱状態に陥る可能性が高い。


今般の事態は、大規模反転攻勢に出ているウクライナにとって有利な状況であり、戦況によっては停戦の可能性も出てきた。(ロシアにとって占領地を失うより停戦が得策)日本のメディア各社も、特別チームを編成してロシアの国内情報を収集する体制を構築しており、目が離せない状況となっている。


以上がこれまでの概要であるが、事態は極めて流動的である。なお、CIAは冷戦期においてKGBと激しい情報戦を展開した歴史があり、伝統的にロシアに対する情報収集体制が確立されている。つまり、ロシア政府内にCIAが獲得したエージェントが多く存在し、正確な情報がもたらされている。


なお、スパイ天国と言われる日本において、ロシア情報機関がどのような情報工作を展開しているかについては、機微な内容のため、クローズの場での提供を検討中である。


 

※ この記事の内容は大伴審一郎の個人的な見解です。

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